読者さま牛首紬の名前は聞いたことあるけれど、どんな織物なのかしら?
牛首紬(うしくびつむぎ)は、石川県白山市の白峰地区で作られている伝統的な絹織物です。
2頭の蚕が共同で作る貴重な玉繭を使い、すべての工程を手作業で一貫して制作します。
生産量が少なく、その希少性から幻の紬とも呼ばれます。
この記事では、牛首紬の名前の由来からその歴史、制作工程まで丁寧に解説します。
- 牛首紬の名前の由来
- 牛首紬の歴史
- 牛首紬の制作工程と特徴



牛首紬の歴史や手作業から生まれる特徴を知ると、紬の中でもひと味違う不思議な牛首紬の魅力に引き込まれるでしょう。
ぜひ最後までお読みください。
牛首紬の名前の由来と歴史


大島紬や結城紬とともに、日本三大紬のひとつに挙げられる牛首紬。
名前は聞いたことがあるけど、あまり詳しく知らないという方も多いのではないでしょうか?
ここでは、牛首紬の名前の由来や歴史を紹介していきます。
牛首紬の名前の由来
牛首紬は、石川県白山市白峰地区で生産される絹織物です。
白峰地区は明治時代の初めまで、村の守護神・牛頭天皇(ごずてんのう)にちなんで「牛首村」と呼ばれていました。
「牛首紬」の名は、この旧地名から由来しているのです。
牛首紬の歴史
幻の紬と呼ばれる牛首紬は、どのようにして生まれたのでしょうか。
ここでは、牛首紬の歩みを時系列に見ていきましょう。
始まりは平安時代
牛首紬の起源は、800年ほど前の平安時代にまでさかのぼります。
1159年、平治の乱に敗れた源氏の落人・大畠某が妻ともに牛首村に逃れてきました。
すぐれた機織り技術を持っていた落人の妻は、村の女性たちにそれを教えたのです。
これが、牛首紬の始まりとされています。
牛首紬が誕生した背景
白山のふもとにある牛首村では、冬には3~4mもの雪が積もります。
畑や田んぼに適さない傾斜地が多い土地でしたが、古くから養蚕が盛んに行われていました。
村人にとって養蚕は、雪に閉ざされた長い冬の間の貴重な収入源だったのです。
通常、繭は一頭の蚕から作り出され、比較的整った形をしています。
いっぽうで、二頭以上の蚕が共同で作る「玉繭」はいびつな形状のため、売り物にならないくず繭として廃棄されていました。



一本の生糸を効率よく取り出せる通常の繭に対して、玉繭は糸が複雑にからみ合っています。そのため、からみ合った糸をほどく技術が必要になるんですよ。
村人たちはこの玉繭から取り出した糸で反物を織りあげ、家庭用の着物として大切に活用しました。
その後、玉繭の特性を活かし、糸を直接引き出す独自の技法「のべひき」が継承されていきます。
この「のべひき」の技術こそが、のちの「牛首紬」を生み出すきっかけとなったのです。
江戸時代~明治時代初期の発展
江戸時代になると、牛首村は幕府直轄の天領となります。
幕府の保護のもと、織物産業が奨励され、牛首紬は全国的に有名になりました。
明治時代末期には、全国に訪問販売をおこない、販路が大幅に拡大し生産量も増加します。
そうして大正時代から昭和初期にかけて、牛首紬の生産は最盛期を迎えました。
第二次世界大戦前後の衰退
第二次世界大戦が始まると、絹織物は贅沢品とされます。
牛首紬も例外ではなく、販路は急激に縮小し、蚕用の桑畑は食糧生産のための野菜畑になってしまいました。
また、和服の需要の低下や経済不況の影響もあり、昭和25年までにすべての生産業者が廃業に追い込まれます。
このようにして、本格的な牛首紬の生産は途絶えてしまったのです。
そんななか、加藤三治郎一家が家庭で養蚕をおこないながら、牛首紬の伝統技術を守っていました。
復興に取り組んだ昭和30年代
昭和30年代にようやく、白峰地区では牛首紬の復興を目指して、養蚕が開始します。
しかし、戦後の混乱のなかでは紬の需要はほとんどありませんでした。



苦労して織りあげたものの、売れずに返品されるということも多かったようです…
「このままでは村の伝統が失われてしまう」との危機感から、牛首紬の復興に尽力したのが西山産業の西山鉄之助氏です。
昭和38年、建設業を営んでいた西山氏は、事業で得た利益を使って桑畑を造成します。
翌年には、紬工場も建設し生産体制を整えました。
昭和50年代に入ると、手作り製品の良さが見直されたことで、伝統工芸品がふたたび脚光を浴びます。



全国的な紬ブームの後押しもあり、牛首紬は生産量を増やして、見事復活を果たしました。
現代に受け継がれる伝統
昭和54年には石川県無形文化財に、昭和63年には伝統工芸品にも指定されました。
現代では、バッグや財布、クッションなどの和装小物やインテリアとしても販売され、身近なものとして親しまれています。
また、洋装の素材としてパリコレクションにも採用され、世界的にも注目を集めています。
牛首紬の制作工程


牛首紬は、すべての工程を職人が、手作業で一貫しておこなっています。
ここでは、制作の流れを見ていきましょう。
牛首紬の制作の流れ
牛首紬の制作は、以下のような流れになっています。
| 1.まゆより | ひとつずつ目で確認して、製糸できない繭を取り除く |
| 2.煮繭(しゃけん) | 糸がほぐれやすくなるように、繭を煮る |
| 3.座繰製糸(ざくりせいし) | 繭から糸を引き出して、1本の生糸にする |
| 4.くだ巻き | 木製のくだに糸を巻き取っていく |
| 5.八丁撚糸(はっちょうねんし) | 糸に撚り(より)をかけ、強度の高い糸にする |
| 6.精錬 | 生糸についた汚れや不純物を取り除く |
| 7.糸叩き(いとはたき) | 糸をしゃくるようにはたき、蚕糸本来のうねりを取り戻した糸にする |
| 8.染色 | 植物染料が基本だが、退色を防ぐために化学染料も使用。 |
| 9.糊付け | たて糸を糊で保護し毛羽立ちを防ぎ、その後の工程を進めやすくする |
| 10.糸繰り | 小枠に糸を巻き取る |
| 11.整経 | 必要なたて糸の本数(約1,100~1,200本)と長さを測り準備する |
| 12.機掛け | 製織のための準備作業 |
| 13.くだ巻き | よこ糸をくだに巻き取り杼(ひ)の中に入れておく |
| 14.製織 | 高機(たかはた)を使ってで手織りで織りあげる |
もっとも重要な工程「座繰製糸」
このなかでとくに重要なのが、「座繰製糸(ざくりせいし)」という玉繭から糸をひき出す作業。
玉繭は複雑に糸がからみ合っているため、均一な太さで糸を紡ぐには職人の経験と勘が必要になります。



玉繭から作られた糸は、伸縮性や弾力性に優れ、着やすくシワになりにくいといった、牛首紬の魅力を生み出します。
快適な着心地を生む「糸叩き」
また、牛首紬の独自の工程に「糸叩き」があります。
これは、何度もはたいて本来の糸が持つうねりを取り戻し、空気を多く含ませるためにおこなう作業です。
空気を多く含むと糸はしなやかで丈夫になり、ふんわりとした軽やかさと体になじむ着心地になるのです。
牛首紬の特徴


熟練の職人が、最初から最後まで手作業で作りあげる牛首紬。
ここでは、牛首紬の特徴について説明していきます。
「釘抜紬」と呼ばれるほどの丈夫さ
牛首紬は、他の紬と比べても圧倒的な丈夫さが特徴です。
釘に引っかかっても破れないほどの耐久性から「釘抜紬(くぎぬきつむぎ)」とも呼ばれます。
原料の玉繭から作られた糸は、ねじれや摩擦に強い性質を持っています。
これを熟練の職人が手作業でさらに丈夫な糸にし、手織りで密に織りあげることによって生みだされるのです。
独特の風合いと光沢
牛首紬は、独特の風合いと光沢感を持ち合わせています。
玉繭からひいた糸はところどころに節があり、織りあげると糸の節が表面に浮きあがります。
浮きあがった節が織物に立体感を与え、他の絹織物にはない光沢を生み出すのです。
後染め製品の多さ
牛首紬には、植物染料を使った先染めと、白生地で織ったものに染色する後染めの2種類があります。
丈夫で光沢があり、複雑な染色表現を活かすのに適しているため、紬としては珍しく後染めの製品が多い傾向が見られます。
このように、後染めの牛首紬は、訪問着や色無地に仕立てられます。
落ち着いた色調のモチーフは、セミフォーマルにも活用できますね。
こちらは、同じ石川県の伝統産業「加賀友禅」の染色がほどこされたもの。
格式高く優美な風合いを楽しめます。
希少価値の高い牛首紬の魅力を楽しもう
牛首紬の名は、生産地の旧地名「牛首村」に由来しています。
約800年前の平安時代に、源氏の落人の妻が機織りの技術を伝授したのが始まりと言われています。
「牛首紬」を生みだしたきっかけは、くず繭として廃棄されていた玉繭でした。
このいびつな玉繭から「のべひき」技術を生みだし、江戸時代には幕府の保護のもと、全国的に知られるように。
しかし昭和初期に全盛期を迎えた牛首紬も、戦後には経済不況の影響で途絶えてしまいます。
戦後の昭和30年代には、牛首紬の復興を目指して生産体制を整え、ついに昭和50年代に復活を果たしました。
現代では、ファッションや小物などさまざまな商品が展開されています。
牛首紬は、すべての工程を職人が一貫して手作業でおこなっています。
牛首紬の特徴は以下があげられます。
- 「釘抜紬」と呼ばれるほどの丈夫さ
- 独特の風合いと光沢
原料の玉繭から作られる糸の性質と職人の技術によって、釘に引っかかっても破れないと言われるほど丈夫な仕上がりになるのです。
貴重な玉繭を使い、職人が糸づくりから製織まで手作業で一貫して生産される牛首紬。
ぜひ、そのなめらかさや気品ある光沢感を手に取って実感してみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。













コメント